昆布と食文化

  • ニュースリリース
  • 奥井海生堂Facebookページ
  • 奥井海生堂のご進物
  • 昆布と日本人
  • メディアに掲載されました
  • 採用情報
  • 昆布LIFEブログ
  • 奥井海生堂オンラインショップ
  • 奥井海生堂社内お弁当コンテスト
  • 和食文化国民会議

HOME > 昆布と食文化 > 掲載記事の紹介/日本ソムリエ協会機関誌

奥井海生堂について 掲載記事の紹介



熟成物語1 昆布は熟成させることで旨味が引き立つ社団法人日本ソムリエ協会

昆布は熟成させることで旨味が引き立つ

 かつて京都の老舗料亭「菊乃井」の村田吉弘さんの本を編集したときに、だしの話になると必ず登場していたのが「奥井海生堂」という名前。「京料理を支えているのは奥井さんの昆布なんや」と村田さん。「蔵囲(くらがこい)昆布」といって、収穫された昆布を蔵で2年熟成させたものを「菊乃井」ではだし昆布として使っているとのことだった。
 「奥井海生堂」は福井県敦賀市にある昆布商で、創業は1871年(明治4年)。永平寺の御用昆布所としても知られている。4代目当主の奥井 隆さんから、昆布の話を聞いた。
 敦賀は天然の良港であり、すぐ南に琵琶湖を控えていたため、古くから日本海と京都・大阪を結ぶ交通の拠点であった。松前船で敦賀に北海道の昆布が到着するのは雪が降り始める頃。昆布は荷役蔵で雪解けまで過ごし、桜が咲くのを待って都へ運ばれていたそうだ。
 「たまたま当時の物流の事情から、ひと冬、蔵で休ませたのだと思いますが、それが昆布にとって幸いしました。というのは、蔵で寝かせることで、新昆布の磯臭さや雑味、ぬめりが抜けて、結果的に昆布の旨味がより引き出されることになったからです」
 ところが、交通手段の発達とともに、その伝統が失われてしまうことになる。蔵囲い昆布を在庫として抱えずに、すぐに換金したい。さらに扱い方によってはカビが生えて捨てざるを得なくなるリスクは避けたい。そのために昆布を寝かせることなく、早く出荷してしまおうということで、新昆布が市場に出回るようになってしまった。
 そんな状況の中で、「蔵囲」という伝統文化を今も継承しているのが日本で唯一、奥井さんのところといって過言ではない。
 昆布蔵を案内いただいた。ワインセラーと同じようにひんやりとしている。昔は土蔵で十分な環境だったが、地球温暖化の影響で夏は気温が上がりすぎるため、今は、蔵囲専用の蔵を作り、1年中22~23度、湿度60%に温度コントロールしている。昆布の心地いい、やさしい香りがあたりに漂っている。昆布はうず高く積まれ、上からむしろがかぶせられている。年に何回か上下を入れ替えるそうだ。この蔵で1年から2年熟成させて顧客へ出荷される。
 蔵にある最も古い昆布は、平成元年に収穫されたもの。「23年物です。何度かだしをとったことがありますが、えもいわれぬ素晴らしく上品な味わいになります」と奥井さん。蔵囲という知恵により、まさに宝箱のような貴重な昆布が残っているのである。
 さて、どんな昆布でも熟成できるものなのか。
 「力強い天然の昆布でないと、熟成させても旨味は出ません」
 ということは昆布には力強いものと、弱いものがあるということ?
 「そうです。昆布には、地域による格付けがあり、それがすなわち品質の格付けと意味します」
 もっとも良質の昆布がとれるのは利尻島と礼文島だが、そのなかでも6カ所の特別な浜から揚がる昆布1等級で品質が高い。さらにその浜の中でも「香深(かふか)浜」の昆布は最高級の昆布だそうである。
 「車で10分ぐらいしか離れてない浜のものと比べても、香深のほうが味が断然いいんです。山から入る河川の違い、潮の入り方、太陽の当たり具合、昆布の胞子が着床する岩盤のあり方など、ぶどうと同じで昆布にも<テロワール>があると私は思うのです」
 実は奥井さん、ご自宅の地下にワインセラーをもっているほどのワインファン。ワインを深く知れば知るほど、昆布とワインの共通点を発見したという。そのひとつが収穫年による差、いわゆる昆布にもヴィンテージがある。生育のいい年は、冬はとことん寒く、春以降は日照時間に恵まれることで、身入りして肉厚な昆布になるという。
 さて、昆布を熟成させる場合、力強い昆布を選ぶことのほかにもうひとつ条件がある。「昆布を収穫したその当日に一気に天日乾燥させたものに限ります」。
 近年、効率を重視し、天然の昆布でも機械乾燥をしてしまうものもある。そうなると、乾燥しすぎて、熟成に必要な水分が抜けてしまい、旨味が育たず、次第に割れてくるという。その点、天日干しの昆布には適度な水分が残っているため、熟成に向くのだそうだ。
 昆布の収穫時期は7月後半から9月後半ぐらいにかけて。早朝、収穫をし、その日の午後2時ぐらいまで天日で乾燥させる。だから昆布の収穫日は好天の日を選ばなければならない。収穫のタイミングを狙うあたりもぶどうと似ている。
 さて、昆布のプロフェッショナルの奥井さんでも、外観を見ただけではその品質はわからないという。見分け方を教えていただいた。
 1リットルの水(軟水が向いている)に昆布を30グラム入れて、一晩漬けこむ。その昆布水をワイングラスに入れて判断する。液体に透明感があり、漬けた昆布がピンとはりつめたものであれば、香りもよく味もいい昆布だそうである。
 昆布蔵の中にいると不思議と心が落ち着く。そこには外の世界とは切り離された悠久の時間が流れているからだと思う。
 昆布という乾物を、ゆっくりと時間をかけて丁寧に熟成させ、より旨味を増すという日本ならではの食文化をもっと見直すべきではないだろうか。そんなことを深く考えさせられた取材だった。
                      (「Sommelier」編集部  佐藤由起)



 


Sommelier[ソムリエ] NO.124  2012.1   熟成物語①         .

ページトップへ